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L'Arbre de Nöel クリスマス・ツリー

フランス映画 (1969)

『L'ultima neve di primavera(メリーゴーランド)』(1973)は、“お涙頂戴” 映画の代表的作品だったが、そこでは、主人公のルカが不治の病と判明するのは映画が80%まで進んだ段階だった。『Incompreso(天使の詩)』(1966)は、“お涙頂戴” 映画に分類すべきではないが、涙はもっと出る。そこでは、主人公のアンドレアが木から落ちて骨髄を破損するのは映画が83%進んでから。しかし、この『クリスマス・ツリー』では、映画が始まって6%の部分で、主人公のパスカルは被曝する。残りの94%は、被曝後のパスカルの残り少ない人生を “何とか楽しくしようと頑張る” 大人たちを描いていて、涙が分散されてしまう。パスカルは、父と一緒にコルシカ島でサマー・キャンプを楽しんでいて、2人でボートに海に出た時、原爆か水爆を搭載したフランス空軍の飛行機が空中で爆破炎上し、それが原因で急性白血病にかかる。父は、爆発時に水中にいたため被曝は避けられた。この映画の同名原作(ミシェル・バタイユ)は1967年だが、この “事故” の背景には、映画の中にも出てくる1966年1月17日にスペインのパロマレス(Palomares)の上空で起きた米軍のB-52爆撃機と空中給油機との空中衝突による事故が念頭にあったものと思われる。B-52には4つのB28(航空機搭載小型核爆弾、広島型原爆の28倍の威力)が搭載されていて、1つはパラシュートで地上に無事着地し、1つは海中で行方不明になり4ヶ月後に回収されたが、問題は残りの2発。地上に落下した衝撃で爆発し(核爆発ではない)、パロマレスのトマト畑をプルトニウムで汚染した。その状況は、下の図のような状況だった(出典は、https://www.bbc.com/news/magazine-18689132)。汚染された土地はフェンスで囲まれ、現在でもフェンスは撤去されていない。しかし、映画を見ている限り、状況は全く違う。もし、放射性核種が飛散したのなら、水中にいた父も被曝していたはず。短時間水中にいた父が被曝せず、パスカルのみが被曝したとすれば、空中で爆発した時の初期放射線に曝されたとしか考えられない。ただ、「急性障害は比較的短い期間に相当量の放射線を全身または身体の広い範囲に受けた場合に、被曝後遅くとも2~3ヶ月以内に現われてくるもの」とされ、その症状は被曝線量により異なるが、その中に急性白血病は含まれていない。被曝後の「白血病の最短潜伏期は2~3年」とされるので、原作、および、映画は 悲劇的な効果を上げるため、この期間を意図的に短縮させたとしか考えられない。原作者はフランス人で、製作者もフランス人なので、フランスが舞台でフランス語が使われているが、そこに出てくる主役の親子2人、名優ウィリアム・ホールデンと、これ1作で名を残したパスカル役のブルック・フラーはいずれもアメリカ人。映画のパンフレットには、ブルックはフランス語が堪能と書いてあったので、吹き替えではない。それにしても、なぜ、2人をフランス人にしなかったのだろう? 他にも分からないことがある。父が、「アメリカに移り住む前、私がまだ若かった頃…」と話すシーンがある。父はアメリカで財をなしたことは分かるが、いつ、フランスに戻ったのだろう? 生まれ故郷で昔憧れていた城を購入したのは最近のようだが、パリ在住の美術ジャーナリストと恋に落ちたからだろうか? 映画の冒頭、パスカルを駅に迎えに行くシーンがある。恐らく、数年前の母の死以後だろうが、なぜアメリカではなくフランスの全寮制の学校に行かされたのだろう? 分からないことが多すぎる。

パスカルは、数年前に母を亡くしてから、父の出身国フランスの寄宿学校に預けられている。父は、アメリカで巨万の富を築き上げた “成り上がり者” で、子供時代に憧れていた近所の城を買い取り、時々暮らしている。父はパリ在住の美術ジャーナリストと結婚することに決め、パスカルが10歳を迎えた夏休みに引き合わせる。そして、これまでの埋め合わせを込めて、パスカルの好きな場所で夏のバカンスを過ごそうと提案する。パスカルは、コルシカ島でのキャンプを希望し、父は渋々了承する。そして、ある日、ボートに乗って海に出た時、釣り糸がアンカーに絡まり、父が潜って解いている最中に、パスカルの上空で原爆を搭載した軍用機が事故を起こし、爆弾1基が空中で爆発、パスカルは放射線を浴びる。父は、地元で悪い噂が立っているのを聞き、即刻パリに帰り、病院で検査するが異常は認められない。しかし、約1ヶ月後、パスカルの額に出現した青い痣が心配になり、再度受診すると、治療不能の急性白血病だと言われ、自宅療養した場合の余命は最大で半年と宣告される。父は、半年間 仕事を休み、パスカルと一緒に田舎の城で過ごそうと決意する。城には、戦友だったヴェルダンを呼び、2人でパスカルの面倒を見ることにする。しかし、父の パスカルに対する “過剰なまでの、甘やかしともとれる応対ぶり” をヴェルダンが批判したことで、2人は口論を始める。その中で父は、パスカルの不治の病のことを話してしまうが、その告白を、パスカルも聞いていて、自分は既に入院した時から知っていたと告げ、2人を驚かせる。それ以後は、隠し事のない生活が始まるが、パスカルが狼が欲しいと言い出したことで、2人は その夢を叶えてやろうと必死になる。そして、すべての合法的な手段が絶たれると、真夜中に動物園に侵入し、狼をつがいで盗み出す。パスカルは、次第に狼と親しくなり、幸せな時を過ごすが、余命の限界であるクリスマスが近づくにつれ、疲労感が増し、死への恐怖からベッドを汚す。父は “ひょっとしたら奇跡が” という一縷の希望すら捨てざるを得なくなる。そして、イヴの日、飾り立てられたクリスマスツリーの下に山と積まれたプレゼントの下で、パスカルは誰にも看取られずに短い生涯を終える。最後に力を振り絞ってツリーのところまで連れて来た狼だけが、遠吠えでパスカルの死を悼む。

ブルック・フラー(Brook Fuller)は、1958年4月9日生まれ。撮影は1969年の冬2月だったので、撮影時は10歳。アメリカのカリフォルニア州生まれ。映画に最初に出演したのは、イタリア映画 『Il gattopardo(山猫)』(1963)。この映画が2作目。映画のパンフレットには、「ニューヨークにある子役専門の学校に通っている」と書いてあったが、このあと 2年後にTVシリーズの1話に出ただけ。2012年にウクライナ映画の脚本を手掛けているが、その後の人生は分からない。生きていれば、もう62歳になっている。

あらすじ

映画の冒頭、オープニング・クレジットとともに、パリのどこかのターミナル駅のプラットホームに、全寮制学校の生徒達を乗せた列車が到着する。その中に、ひときわ元気な10歳の少年パスカルがいる。そのパスカルを迎えに来たのは、父だけでなく、初めて見る女性も一緒だった。パスカルは、父に紹介され、差し出された手を愛想よく握る(1枚目の写真)。父のロールス・ロイス・シルヴァークラウドのコンバーチブル(オープンカー)が、パリで最も有名で格式の高いレストラン、マキシム(Maxim's)の前に停車している。中では、3人がテーブルに座り、パスカルは料理の半分を残している。父は 「嫌いなら、何か他のものをオーダーしなさい」と言うが、パスカルは 「いいよ、ありがとう」と断る。そこにボーイが寄って来て、サンフランシスコから電話だと告げる。父がいなくなると、パスカルは 「今、サンフランシスコ 何時か知ってる?」と訊く。「時差は5時間か6時間よね。でも、早くなるのか遅くなるのか忘れたわ」。「9時間マイナスだよ。だから 今は、正確に言うと午前4時11分」〔4+9=13時。3人は昼食を食べていることになる〕。「こんな時間にかけてくるなんて、すごく大事な用事なんだろうね」。「なぜ、ハンバーグ頼まなかったの?」。「パパが2人分頼んじゃったから」。戻って来た父は、「お前のバカンスについて話そうじゃないか。何日ある?」と訊く。「いつも通りだよ」。「夏のバカンスが いつも何日あるのか教えてもらえるかな?」。「10週間と4日だよ」(2枚目の写真)。「で、どこに行きたい?」。「ナッソー〔バハマの首都、マイアミの東南東300キロ〕や、ドーヴィル〔ノルマンディー海岸の女王〕や、モンテカルロや、カプリ〔イタリア〕、じゃなければ」。女性が 「なぜダメだの?」と訊く。「パパは、ジン・ラミー〔カードゲーム〕やバックギャモン〔ボードゲーム〕に目がないから」。「どこに連れて行く気だ?」。「選んでいいの? 約束する?」。父は、手を上げて誓う。「なら、コルシカにする」(3枚目の写真)。「コルシカだと? キャンプ場しかないって話だぞ」。「それが僕の希望なんだ。テントで夏を過ごす。約束したよね」。「パスカル、お前を喜ばせるためなら どんなことでもするが、テントでひと夏だけはご免だ」。
  
  
  

場面は一気にコルシカ島へ。父のテントの前でパスカルは考える(1枚目の写真)。そして、父を起こそうと、砂をすくって父の手にかける。目を覚ました父は、「何時だ?」と訊く。「4時だよ。僕、もう2回も泳いできた」〔コルシカ島の7月の朝4時はうす明るくなる始める頃なので、これは午後の4時。つまり、父は昼寝をしていたことになる〕。「起こせばよかったのに」。「疲れたマーモットみたいに寝てるんだもん」(2枚目の写真)。「その通りだ。この1週間で、こんなによく寝たのは初めてだ」。そして、「ボートまで競争だ」と言い出すが、テントの外にいるパスカルの方が断然有利だ。2人はゴムボートに向かって海に入って行く(3枚目の写真)。
  
  
  

先にボートに泳ぎ着いたパスカルは、「勝った!」と喜ぶが、船尾のチューブによじ登ろうとして、後ろから父に押されて海にドボン。その隙に父が乗り込み、笑いながら、「ボートに先に乗った方が勝ちだ」と言う。「そんなの変だ。パパ、ずるいよ」。「そうだな。だが、いい勉強になったろ」。2人はあくまで仲がいい。「誰も信用するんじゃないぞ。特に父親はな」。父がオールを漕いで、海岸から少し離れる。「どこに向かってるの?」。「何がしたい?」(1枚目の写真)。「真珠を探したり、フライにする魚を捕ろうよ」(1枚目の写真)。「分かった。じゃあ、流されないよう、アンカーを下ろせ」。父はボートの上で横になり、パスカルが、仕掛け糸を繰り出して行くが、潮の流れが逆だったため、糸の先端の針がアンカーに絡まってしまう(2枚目の写真)。父は、ほどいてやろうと、海に入り、アンカーの方に潜って行く(3枚目の写真)。
  
  
  

その時、上空で大きな爆発音がし、パスカルが振り向くと(1枚目の写真)、落下していく十字形をした何かの上で、大きな爆発が起きる(2枚目の写真、矢印は十字形)。父がすぐに海面に出ると、パスカルが落ちていく爆発物を指差しているのが見える(3枚目の写真)。そして数百メートル先の海面に落下し、大きな水柱が立つ。この状態を父は観ているので、パスカルの被曝は最初の爆発(2枚目の写真)の時に起きたとしか考えられない〔2枚目の写真の爆発が、強力な放射線を発するような核爆発とは思えないが… 普通の爆発で、放射性核種が飛散しただけなら、解説で書いたように、父も同様に被爆しているはず〕。最後に、3つのパラシュートで吊られた核弾頭が海面に無事着水する(4枚目の写真)〔こちらの方からの放射能漏れはない。パロマレス事故の1号爆弾と状況がそっくり〕
  
  
  
  

パスカルは、「爆発したの軍用機だと思う?」と父に訊く。「分からんな。とにかく、ここを離れた方が良さそうだ」。父はオールを漕ぎ始めるが、パスカルが急に 「寒い」と言い出す〔MSDマニュアルには、急性放射線障害について、①6Gy以上の放射線を浴びてから1時間以内に重度の吐き気、嘔吐、下痢が始まることがある、②20~30Gyを超えると、錯乱、吐き気、嘔吐、血性の下痢、振戦、ショックを急速に起こし、数時間で血圧が低下、痙攣発作が起こり、昏睡状態に陥る(ほとんどが数時間から1~2日の間に死亡) とあるので、①に該当するが、“寒気” というのは、他のサイトを含めて書かれていない〕。パスカルは、すぐにセーターを着る(1枚目の写真)。ホテルのプールサイドに行ったパスカルと父。パスカルは、「テント、それほどひどくなかった?」と訊く。「戦争中は もっとひどい場所で寝たからな」。「ヴェルダンが話してくれた。ドイツ軍が捜してる間、木の上で寝たんだよね」。その時、カウンターの隣の男が、注文を聞きにきたウェイターに、「魚はいいよ。ここ数日、いろんな噂が飛び交ってるからな」と話している声が聞こえてくる〔事故の数日後だと分かる〕。この言葉に、父は敏感に反応する。そして、ウェイターが去った後、男は 同伴の女性に、「あとで ぎょっとさせられるより 怖がっておいた方がいいんだ。もし、パロマレスと同じことが起きてたら、知る権利があるだろ」と説明する(2枚目の写真)。父は即座に席を立つと公衆電話から 大臣官房の友人に電話をかける。その官僚は、最初は否定していたが、父が 「事は重大なんだ。どうしても知りたい。パスカルも一緒だがら 心配なんだ」と切迫した声で疑問をぶつけると、「2人ともパリに戻った方がいい」という曖昧な返事(3枚目の写真)。「じゃあ、スペインのパロマレスみたいな原爆か?」。「私は、帰宅を勧めただけで、そんなことは言っていない」。「冷静になれよ。何をそんなに怖れてる?」。「観光業に打撃を与えたくない」〔Go To Travel キャンペーン そっくり。どこの政府も考えることは同じ〕
  
  
  

父は、最初に出てきた女性カトリーヌに乗せてもらい、パリ西端のブーローニュの森の南にあるアンブロワーズ=パレ AP-HP病院(Hopital Ambroise Paré)に行く。次の検査まで1時間あると知らされると、カトリーヌは動物園に連れて行く〔この映画は半世紀以上も前の製作なので、彼女がどこに連れて行ったのかは分からない。現在 ブーローニュの森にあるのは鳥類館(Grande Volière)だけで狼はいない。パリ東端にあるヴァンセンヌの森の一角にあるパリ動物園は2008年から動物を檻から解放する展示に変えていて旧情は不明だし、1時間の待ち時間しかないのに13キロも離れた場所にパリを横断して行くハズがない〕。動物園の中で、パスカルが 「あと何分ある?」と訊く。カトリーヌ:「20分よ。そろそろ戻りましょ」。「狼を見に行ける?」(1枚目の写真)。父:「もう2回も見たじゃないか」。それでも、パスカルは見たいと主張し、カトリーヌも賛成してくれたので、狼の檻に向かって走って行く。パスカルがいなくなると、父は、カトリーヌに、「エロッド(Herod)城、見たくないか?」と誘い、「この週末はダメ」と断られる。そして、檻の方を見ると、パスカルが鉄網の中に指を入れている。危険なので、「パスカル!」と大声で注意し、パスカルが何事かと振り向く(2枚目の写真)。パスカルは 「噛んだりしないよ」と平然と答える。檻の前を離れたがらないパスカルに、父は 「明日、キャンプに行く前に、もう1回寄ろう」と言う〔ここでも説明がないが、夏のバカンス中なのに、パスカルはサマー・キャンプに行かされる〕。カトリーヌは、パスカルの狼に対する質問に 「本を買ってあげるわ」と応える。パスカルは、父に 「今年のバカンスは最高だよ! パパもそうだよね?」と訊く。父は、パシカルの肩に手を置くと、「最高だとも。でも、まだ終わってないぞ」と、期待を持たせるように言う(3枚目の写真)。
  
  
  

先ほどのシーンから数週間後の週末。夜、父がカトリーヌをエロッド城に連れてくる。車から降りた父は 「エロッド城。世界中で一番素敵な場所だ」と自慢する。「連れて来てもらえて 嬉しいわ。ここで生まれたの?」。「数キロ先だ。アメリカに移り住む前、私がまだ若かった頃、いつか自分のものしてみせるって誓ったんだ」。そのあとの2人の会話の中で、重要な部分だけピックアップすると、まず、父に関しては、①二重国籍のお陰で25歳になる前に最初の百万を稼いだ、②2人は結婚する気でいる、③パスカルは10歳で、彼のサマー・キャンプは城の近く、④城にはいくつ部屋があるか 父は知らないが、「6つか7つ使っている」と答えるので、しばらく前から暮らしている、⑤家政婦のマリネットは 城の近くの小屋に住んでいる。翌朝、2人が城から外に出ると、サマー・キャンプの子供達が歌いながら歩いて来るのが見える。カメラは、歩いているパスカルに切り替わる。彼は、後ろを歩いている子に、コルシカ島での体験を話している。「最初、空飛ぶ円盤かと思ったけど、パパが違うって言った。燃えてたのは飛行機のエンジンで、後でパラシュートが現われたんだ」。前を向いパスカルは、城の前の石垣の上に立つ父に気付く。そこで、「パパ!」と叫んで、走り出す(2枚目の写真、矢印)。この城のロケ地は、IMDbには、アルプ=ド=オート=プロヴァンス県のカステラーヌ(Castellane)にあるカステラーヌ城と書かれているが、間違い。実際には、そこから12キロ南東のラ・マルトル(La Martre)にあるトーラン城(Château de Taulane)。写真を3枚目に示す(見つかったのは偶然)。そのあと、サマー・キャンプの子供達全員が城に招かれる。4枚目の写真で、中央に映っているパスカルは、旧知のヴェルダンと話している。ヴェルダンは、サン=トロペにいる。サン=トロペは、トーラン城の南56キロにあり、近いように思えるが、映画の中でエロッド城があるのは、パリ北西に隣接するヴァル=ドワーズ県だと思われる〔パリの都心の北約25キロなので、パリから気軽に来ることができる〕。だから、ヴェルダンは、実際には700キロ以上離れた遠方にいることになる。この4枚目の写真では、右端の子は、ソファの背の上を靴履きのまま歩いているし、左上の子は階段の鉄の手摺の上に靴履きのまま立っている。ひどいものだと思う。
  
  
  
  

パスカルが電話をかけている姿が大写しになる。パスカルの左のこめかみが青くなっている(1枚目の写真)。父は、それを見ると心配になり、引率の女性に、「パスカルの額の青いものは、何ですか?」と質問する。全然心配などしていない女性は、「ご心配なく。小さな青い斑点が何度も現れますが、翌日には消えてしまいます」と答える。しかし、それを聞いた父は、危機感を覚え、カトリーヌに、「これから医者に電話する。荷物をまとめ、パスカルの持ち物を集めてくれないか。即刻パリに戻らないといけない」と告げる。そして、翌日、親しい医者の前に呼び出された父は、ショック状態で 「治らない。希望はゼロ」と呟く。医者は、ウィスキーを飲み干すよう勧める。「そんなのあり得ない! 希望はあるはずだ!」(2枚目の写真)。「あると言ったら嘘になる」。「1ヶ月前の最初の検査で、嘘を付いたじゃないか!」。「だが、何度も検査をしないと、と言ったろ。あの時、子供は健康そうに見えた。放射能汚染の兆候は皆無だった」。「今回も、前回みたいに間違いじゃないと、どうして断言できる? 君は神じゃない。絶対正しいなどと言えるはずがない!」。「先月は何の異常もなかった。今日は、私の同僚の専門医3人も検査に加わった」。父は、結論を受け入れ、「今まで苦痛はなかった。今後は?」と心配する(3枚目の写真)。「可能性は低い。看護婦が、服用する薬と 注射の打ち方を教えるだろう。我々にできるのは、それしかない」。「残された時間は?」。「普通に暮らせば3~6ヶ月。入院すれば1年だろう」。医者は、「常に検査を受け、転院をくり返し、真実を知って、死の恐怖に晒したいのか?」と、ズバズバ話す。理由は、これを最後に引退するので、「最後の患者には本心を告げようと思った」から。そして、最後に 「この機会を生かすべきだ」と勧める。父が 「機会」という、およそ場違いな言葉に驚くと、「そうだ。こう考えるといい。君は、10歳の少年と一緒に、今、この世に生まれた。そして、6ヶ月間 一緒に生きるんだ」。
  
  
  

その夜、カトリーヌのアパートに行った父は、決心を告げる。「パスカルを、いつ城へ?」。「数日後だ」。「あなたの体は大丈夫なの?」。「海に潜っていたから、遮断したのだろう」。カトリーヌのアパートを出ると 大きな交通事故が起きていて救急車が到着したところだったが、集まる群衆を横目に、父は全く無関心にその前を横切って行く。如何に、父の心が大きな悩みを抱えているかを象徴するシーンだ。そして、数日後、父が運転するロールスは、パスカルを乗せて城に向かう。ここでまた難問。道路標識が意図的に大きく映り、「N141」、パリまで430キロと表示される。城は、パリからそんなに遠いのだろうか? こんなに遠くては、気楽に来れない〔因みに、N141は、フランス南西部のサント(Saintes)とサン=ジュニアン(Saint-Junien)を結ぶ国道で、ロケ地のトーラン城とは500キロほど離れている〕。車内で、パスカルは 「学校が始まるのに、なぜパリから離れるの?」と尋ねる(1枚目の写真)。「ちょうどいい。話しておきたいことがある。医者が言うには、パパは病気だとか。重病じゃないが、しばらく田舎で暮らした方がいいそうだ」。「お城に行けばすぐに治るよ。ヴェルダンが言ってた、水が健康にいいんだって。僕、手伝うよ」。「だから、お前を連れてきたんだ。1人じゃつまらないからな」。ロールスは、ガスリン・スタンドに入る(2枚目の写真)。このロケ地は、IMDbによれば、ヴァル=ドワーズ県〔パリのすぐ北西〕のエピネイ=シャンプラートルー(Epinay-Champlâtreux)のN16沿いのGS。グーグルのストリートビューの半世紀後の状況が3枚目の写真。こちらは、城と違い、多分合致しているであろう〔要は、城がどこにあるのか、全く分からないということ〕。パスカルが車から降りて給油を見ていると、ちょうどトラクターが通りかかる。それを見たパスカルは、「ねえ、トラクター手に入れようよ」と父におねだりする(4枚目の写真)。「農家でも始めたいのか?」。「ううん、森の中を走りたいだけ」。「大きいのか、小さいのか?」。「中くらい。でも、色はブルーがいいな」。
  
  
  
  

翌朝、パスカルは起きてくると、棚からパン・ド・カンパーニュを取り出し、まな板の上に置くと 包丁で切り取る(1枚目の写真)。そして、切れ端を頬張りながら城の脇の建物まで走って行き、「ヴェルダン、いる?」と声をかける。すぐに、「ああ、こっちだ」と呼ぶ声が聞こえ、パスカルは作業室に飛んで行く。パスカルの姿を見たヴェルダンは、洗濯の手を休め、濡れた手でパスカルの服を汚さないよう、抱きしめる(2枚目の写真)。「元気か? 会えて嬉しいよ。当分、いるのかい?」。「パパは、うんざりするまで だって」。「パパは、引退か?」。ヴェルダンが、水を入れた桶で服を洗っているのを見て、「水道、まだ引いてないの?」と訊く。「勧められてるが、入れる気はないな。庭からミネラルウォーターが湧き出るのに、なんで只の水なんか要るんだ?」。そう言うと、自慢のミネラルウォーターの入ったボトルを取り出し、パスカルに試飲させる。かなりの硬水だったらしく、パスカルは一口飲んで、「ゲー」っと言う。パスカルは話題を逸らそうと、壁に掛けてあったザリガニ捕りの網を見て、「捕りに行こうよ」とおねだりする(3枚目の写真)。
  
  
  

夜、父が 手の平に1回分の薬を乗せ、「ほら」と渡す(1枚目の写真)。パスカルは、すぐに飲むと、「病気なのはパパなのに、なぜ僕が薬を飲むの?」と尋ねる。「パパも飲んでるさ。それは予防薬だ。聞いたことないのか?」。パスカルはベッドに潜り込むと、毛布を顔まで引っ張り上げ、「最近、すごく寒いや」と顔をしかめる(2枚目の写真)。「当たり前だ。夏は終わったからな。もう1枚 毛布を持ってこよう」。「ありがとう、パパ」。「お祈りを忘れるな」。「パパもね」。父のキスを受ける前の、パスカルのとっておきの顔が3枚目の写真。父が部屋を出ようとすると、「こんなに寒いなんて変だ」というパスカルの声が聞こえてくる。父の困惑した顔が映るが、なぜすぐ毛布を取ってこないのだろう?
  
  
  

恐らく翌朝、パスカルがシリアルに牛乳をかけて食べていると、外からクラクションの音が聞こえる。窓まで行って何が来たか確かめたパスカルは、ゆっくり新聞を読んでいる父に、「ありがとう、パパ」と声をかけ、そのまま走って玄関から出る(1枚目の写真)。そこには、パスカルが希望した中型のブルーのトラクターが トラックに乗せられていた。城の壁の修理をしていたヴェルダンが 音を聞き付けて見に行くと、ちょうど、トラクターがトラックから板の斜路を使って下ろされているところだった。話を聞かされていなかったヴェルダンは、「トラクターだと? 信じられん」と言い、近寄っていく。父が、ベランダから見下ろすと、パスカルがトラクターに乗って操作法を教わり、エンジン部分の前ではヴェルダンが呆れたように見ている(2枚目の写真)。トラックは去り、パスカルが一人で運転を始める。ヴェルダンは、後ろを歩きながら、「気をつけろ。オモチャじゃないんだ」と 口うるさく付きまとう。そこに父が歩み寄る。パスカルは、「何が足りないか分かった。トレーラー〔トラクター用の小型の運搬車〕だよ」と言う。「何に使う?」。「ヴェルダンと僕が、宝物捜しで穴を掘る時、余った土を運ぶんだ」(3枚目の写真)。ヴェルダンは、それも初耳なので、「誰が掘るんだ?」と心配する。父は、買うのをOKし、パスカルは 「色はブルーだよ」と念を押す。ヴェルダンは、「トラクターにトレーラー、甘やかし過ぎだ。芝生の上を通ったり、花を踏み潰したらどうする?」と、パスカルの父に文句を言う。「また生えるさ」〔意味深長な言葉〕
  
  
  

別の日、パスカルはヴェルダンにザリガニ捕りに連れて行ってもらう。パスカルが網にかかったザリガニを掴んでいると、ヴェルダンは、「それじゃ指を挟まれちまう」と言って パスカルの手からザリガニを取り(1枚目の写真)、「こんな風に 真ん中を持つんだ」と教える。パスカルは、「パリで狼に噛まれそうになったの知ってた? 動物園だよ」と言った上で、「ここには 狼いる?」と訊く。「もちろん、いない。昔はいたんだがな」。「ヴェルダンが子供の頃?」。「もっと前さ」。その時、父の声がする。「こっちを向いて」。父は 二眼レフカメラでパスカルを撮ろうとする(2枚目の写真)。父は一緒に来たが、釣りには参加せず、もっぱらカメラにかかりきり。
  
  

城に戻り、厨房のテーブルの上で捕って来たザリガニの数を、2人がバラバラに数えている(1枚目の写真)。ヴェルダンの方は、「472, 473, 474」とすごい数。パスカルの方も、「218, 219」とかなりの数。しかし、ヴェルダンの声がすごく大きいので、観客にもパスカルの声は聴き取りにくいし、パスカル自身にも邪魔になる。そこで、「もっと静かに数えられないの?」と文句をつける。ヴェルダンは、「申し訳ありません」とバカ丁寧に謝った後、嫌味たっぷり、囁くように、「477, 478」と数える。パスカルが数え始めると、父が入ってきて、「パスカル」と呼び、二眼レフでフラッシュをたく(2枚目の写真)。パスカルは、「やめて! パパのローライフレックス〔最高の二眼レフ〕とフラッシュにはウンザリだ!」と叱るように文句をつける。ヴェルダンが、「どうしたんだ? そんな口きいて」と諫めると、「今日は、写真ばっか撮って!」と、強く非難する(3枚目の写真)。父は 「そう怒るな」と言っただけだが、ヴェルダンは 「何だ その態度は。パパさんは 写真を撮りたかっただけじゃないか。そのどこが悪い?」と、再度叱る。それを聞いたパスカルは、いたたまれなくなって逃げ出す〔このあとすぐに分かるが、パスカルはパリの病院で、もう自分の病気のことは知っていた。だから、父が “生きているうちに” と写真を撮り続けたことに耐えられなかった〕
  
  
  

ヴェルダンは、「あんなの、お尻を一発叩いてやらないと」と、父の優柔不断さに腹を立てる。父:「放っておくんだ」。「放っておくだと! 何をやってもお咎めなしか? トラクターにトレイラー、前はこんなじゃなかった。あんた、あの子を甘やかしてる。口を出すべきじゃないが、いい子がダメになるのを見ちゃおれん」。ここで、我慢の限界に達した父が、テーブルを思い切り叩いて、「ヴェルダン!!」と怒鳴る。「パスカルはダメにはならん。大人になんかならない。病気なんだ! 治せない! すぐに死ぬ!」。この凄まじい告白に、ヴェルダンは、恐らく生涯で最大のショックを受ける。 「そんなこと言って… 一体どうした?」と言いながら、ヴェルダンは チェストの上に乗っていたウィスキーをコップに注ぎ(1枚目の写真)、煽るように飲む。「誰だって病気になる。重いのにもな。だが、今ならどんな病気だって治せる。大概の病気なら。パスカルのは治せないのか?」。「治せない。白血病だ」。そして、コルシカでの “事故” のことを話す。病院の医者から、パスカルを幸せにしてやるように言われたことも。ヴェルダンは、「そうしなくちゃ」と賛成する。父は、「君もだぞ」と、ヴェルダンに打ち明けた以上、彼も仲間に加える。そして、「だが 慎重にしないといかん。パスカルはバカじゃない」と注意する。ヴェルダン:「もし 分かってしまったら…」。
  
  

その時、間髪を置かず、背後で、「でも、もう分ってるよ」と声がし、2人は凍り付く。恐る恐る後ろを向くと、部屋の入口にパスカルが立っていた。父の反応は、意外だった。「盗み聞きは禁じてある。なぜ、そんなことをした!?」という叱咤だ。「僕について話してたから、何のことか聞きたかった」。ヴェルダン:「入ってくればよかったのに」。「そしたら、話をやめるでしょ」(1枚目の写真)。父は、パスカルを自分の前に座らせると、“深刻さ” の打ち消しに努める。「いいか、私たちがさっき話していたことは確実ではなく、医者の推測で、往々にして間違うんだ」。「これは違うよ、僕、もう病院で知ってたんだ」(2枚目の写真)。さらなる衝撃が走る。「何だと? 誰から聞いた?」。「そうじゃなくて、看護婦さんが話してるのを聞いた。夜 寒くて眠れなかった時、長くは生きられないって話してた」。「そんなのは証明にはならない」。「お髭のおじいさんのお医者さん覚えてる? 最後の日に、もう治ったから家に帰れると話したあと、部屋を出て行って泣いてるのを見ちゃった」。「それでも証明にはならない」。「僕は、利口じゃないけど、バカでもない。他にも見つけたことが…」。ここまで我慢して聞いていたヴェルダンが、遂に爆発する。「家に帰るぞ! こんな話、聞いちゃおれん!」と叫んで 出て行こうとする。父は、「何をする気だ?!」と強く制する。「酔っ払うのさ!」(3枚目の写真)。「行けよ、何を待ってる? ぐでんぐでんに酔っ払うがいい!」。この不毛のやりとりに終止符を打ったのは、パスカルの次の言葉。「怒らないで、パパ。何とかなるよ」〔パスカルが、少し落ち着き過ぎているようにも感じられる。自分の死を、こんなに冷静に見つめられるものだろうか?〕
  
  
  

翌朝、父が朝食を食べていると、そこに、明るい顔をしたパスカルが、「嘘みたいに よく眠れた」と言って現れる。そして、「今日は 何するの?」と訊く。「何がしたい?」。「さあ」。そこで、父が届いたばかりの本を、「ほら、きっと お前にだ」と言いながら渡す。それは、『Œuvres complètes de Buffon : avec des extraits de Daubenton, et la classification de Cuvier(ビュフォン全集: ドーバントンからの抜粋、キュヴィエの分類を含む)』という全集の第4巻〔第6巻まである。18世紀のフランスを代表する博物学者ビュフォン伯ジョルジュ=ルイ・ルクレール(1707-88)の著作を19世紀になって全集としてまとめたもので、10歳年下のルイ・ジャン=マリー・ドーバントン(1719-99)と、60歳以上年下のジョルジュ・キュヴィエ男爵(1769-1832)の業績をも含まれている〕。不思議なのは、こんな特殊な本なのに、包装から本を出しただけのパスカルが、「狼の本だ」と言うところ。表紙には、狼の “お” の字も書かれていない。中には、カトリーヌからの手紙が入っている(1枚目の写真)。「どっちを読もうかな?」。「最初は、手紙じゃないかな」。パスカルは、手紙を読み始めるが、場面は すぐに変わり、トラクターに乗ったパスカルが狼の部分を読み上げている(2枚目の写真)。その間、ヴェルダンはトラクターの巨大なタイヤのホイールを掃除していたが、「ちょっと読んで」と言って本を渡されると、「文字が小さ過ぎる」と断る。「眼鏡が要るね」。「考えたことなかったな。だが、簡単に解決できる」。「どうやって?」。「読まなきゃいい。ところで、その本には狼使いのこと書いてあるか?」〔狼使いは童話の世界〕。「ううん。それ何?」。「魔法使いなんだ」。その先は、城に戻ってから ヴェルダンが話して聞かせる。細かな内容は省略するとして、後に関係する部分は、狼使いが赤い帽子に赤い手袋だという部分。パスカルは興味津々で聞いている(3枚目の写真)。
  
  
  

そろそろ寝る時間になり、パスカルが、「すごく暑い」と言ったので、父はすぐに体温を測定。38度5分あったので、すぐに医者に電話をかけて相談する。しかし、その時代では手の打ちようがないので、従来からの飲み薬(コルチゾン)と注射(アクチノマイシン)を続けるよう言われただけ。安静に、とも言われたらしく、「10歳の男の子が走り回ろうとするのを、止めようとした経験ありますか?」と、言葉を返す。電話が終わり、ヴェルダンが、「できることは何もないのか?」と父に尋ねると、「ない。薬と注射とお祈りだけだ」と答える。ベッドに横たわったパスカルの太ももに筋肉注射をした後、父は 「どうだ?」と訊く。「注射、上手になったね」。そのあと、毛布をバタバタさせながら、「涼しくならないかな? 熱のせいかな?」と暑がる。父は、「ここが暑いんだ。暖房を下げよう」と言い、少しでも安心させようとする。そして、「何か飲みたくないか?」と訊く。パスカルは、「もう 寝てよ。真夜中だよ」と 父を気遣う(1枚目の写真)。「お前が眠るまで待ってる。ほんとに要らないのか? レモネードは? それとも、スコッチがいいか?」と言って、パスカルを笑わせる(2枚目の写真)。「欲しいものがあれば、言っていいんだぞ」。パスカルがクスクス笑う。父:「何かあるんだな?」。「そうなんだ。欲しいものあるよ」。「何だ?」。「手に入れてくれる?」。「いいぞ。何なんだ?」。「狼」。次のシーンでは、父とヴェルダンが、狼を手に入れようと電話をかけまくっている(3枚目の写真)。
  
  
  

狼の購入が不可能と分かった父は、パスカルが狼と出会ったパリの動物園まで行き、盗み出すことにする。独りでは無理なので、ヴェルダンの全面的な協力を仰ぐ。「パスカルが狼を欲しがってる。何としてでも手に入れるぞ」。「18ヶ月は ぶち込まれるな」。「そうはならんさ。捕まったら警官に言ってやる。戦争なんだと。それでも否定されたら、もし平和だったら、何で飛行機の爆弾で子供が殺されなきゃいけないんだと言ってやる!」。この父とヴェルダンの会話はカトリーヌのアパートで行われている。2人は、①柵を乗り越えるためのアルミ製の脚立2個、②檻の南京錠を外す〔正確に言うと、南京錠が掛っている金属の輪を切断する〕ための金鋸、③狼の捕獲棒2人分、④狼を眠らせるためのクロロホルム、などを揃える相談をする。そして、準備が整った日の真夜中、ロールスは長く続くフェンスの前に停車する。車から降りたヴェルダンは、トランクから脚立を取り出し、父が真っ直ぐに伸ばして梯子に変えてフェンスに立てかける。父が途中まで登ったところで、ヴェルダンが2個目を渡し、父はそれを柵の反対側に立てかける。こうして、「Λ」形の通路が完成する。ヴェルダンは、道具一式の入った鞄を持って梯子を登る(1枚目の写真、矢印は父)。2人は狼の檻まで行くと、父が金鋸で南京錠を切り始めるが、途中で夜警が見回りにやってくる。幸い、ラジオをかなり大きな音で鳴らしながら歩いているため、事前に察知して身を隠すことができた(2枚目の写真、矢印は夜警)〔動物にとって、安眠妨害では?〕。夜警がいなくなり、南京錠が外れると、2人は捕獲棒を持って檻の中に入る。当然、2匹の狼〔つがい〕は怯えて唸り声を上げ、飛びかかろうとする。2人は、慣れない手つきで奮闘し、ようやく2匹とも輪の中に首を入れることができた(3枚目の写真)。後は、棒で押さえつけ、クロロホルムを注射して眠らせる。そして、狼を袋に入れると、車のトランクに入れる。
  
  
  

真夜中にパリを出たロールスは、ごく早朝、「N141」の標識の前を通過する〔もし、城がパリ近郊なら、まだ真っ暗なはず。城は、やはり、もっとずっと遠いのか? 状況により、遠かったり近かったり感じさせるので、“テキトー” というのが正直な感想〕。そして、先回も寄ったガソリンスタンドに寄る。ただ、朝が早すぎ、アルバイトの学生しかいない。そこに白バイが2台やってくる。30キロ後方のガソリンスタンドが襲われたための検問だが、相手がロールスの持ち主なのに、つっけんどん過ぎる気がする。最後は、狼が覚醒して声を上げ始め、見つかる寸前までいくが、ちょうど通りかかった荷馬車の馬が狼に怯えて暴走し、その隙に逃げることができた〔ワザとらしくて、良質なエピソードとは言い難い〕。城に戻った父は、まだ薄暗いパスカルの部屋に入って行く。パスカルは、父の気配で目が覚める。「パパだね?」。「起こすつもりはなかった、眠りなさい」。「狼、捕まえた?」(1枚目の写真)。「なぜ、分った?」。「ヴェルダンと一緒に出かけたから」。狼が早く見たいパスカルは、パジャマの上からガウンをはおって 地下室まで見に行く。そして、狼に向かって、「怖がらないで、友だちだから。ちゃんと世話するよ。誰にも傷つけさせない。約束する。ここにいれば幸せになれるよ」と、フェンス越しだが 至近距離から、目をじっと見て話しかける。そして、父に、「何て呼ぼう?」と訊く。「さあ。お前が名前をつけてやれ」。パスカルは、父を見ながら、「狼たちがここにいて嬉しいよ。きっと僕らを護ってくれる」と、嬉しそうに言う(2枚目の写真)。そして、ヴェルダンから、寝室に戻るよう促され、階段を上がって行く時、振り向いて、「名前 決めたよ。アダムとイヴだ」と言う(3枚目の写真)。
  
  
  

ヴェルダンが肉の塊から狼の一口大の塊を切り出し、パスカルに向かって投げる。パスカルは、1つ受け取るごとに、「イヴ」、「アダム」と言いながら、肉片をバケツに入れていく(1枚目の写真)。家政婦は、「なぜそんなに大量の肉が要るんだって、肉屋に何度も訊かれましたよ」と話す。ヴェルダン:「余計なお世話だ。犬のためだと言ってやれ」。「何も言わなかったわ。耳が遠いから」。肉塊がなくなり、バケツが一杯になると、2人は狼の所に行こうとする。すると、窓の外を見たヴェルダンが、「見ろや、初雪だ。願いをかけろ」と言う。パスカルは、バケツをヴェルダンに渡すと、玄関から顔を出して空を見上げる(2枚目の写真)。流れるのは、ジョルジュ・オーリックの曲(https://www.youtube.com/)。静かでシンプルな旋律が流れるこのシーンは、雪の中で父と子が触れ合う時(3枚目の写真)、心にジンと迫る。
  
  
  

ヴェルダンが暖炉の前に座り、パスカルがビュフォンの第4巻をヴェルダンに読み聞かせている(1枚目の写真)。すると、暖炉の火に屈み込んだヴェルダンが、「なあ、こんなでクリスマスまでに終わると思ってるのか? この、怠け者」と、文句を言いながら、赤く熱した鉄の棒を取り出す。「まだ 5週間あるよ」〔ということは、11月20日頃〕。「だが、こんな調子だと 5ヶ月はかかっちまうぞ。熱いうちに、“O” の字を完成させろ」。ヴェルダンから鉄の棒を受け取ったパスカルは、キャンバスに焼けた先端を押し付ける(2枚目の写真)。そこに、父が飛び込んできて、雄狼のアダムが 地下室の中にある干上がった井戸に落ちたと話す〔フェンスの中に入れておいたはずでは?〕。「時々、呻き声が聞こえるから、幸いまだ生きている」。ヴェルダンは、「井戸は浅いがとても狭い。パスカル、君の出番だな」と言う。
  
  

パスカルが、アダムの体に布を縛り付け、一緒に這い上がる(1枚目の写真)。父は、アダムに処置を施している間、パスカルに 「イヴと話していなさい」と言う。パスカルは 「ちゃんと手当するから、安心するんだよ」と慰める。ただ、応急処置といっても、クロロホルムで眠らせ、痛めた脚を添え木で縛ることぐらいしかできない。それが終わると、父は何を思ったのか、パスカルをチラと見てから立ち上がると、イヴの入っている小部屋のフェンスを開ける。パスカルは 怖がることなく、「イヴ、おいで」と呼びかける。「いい子だね。忠実で、勇敢で、賢い。おいで」。イヴは、パスカルの差し出した手を舐める(2枚目の写真)。ここで再び “あの曲”。パスカルは、イヴの顎の下を手で掻く(3枚目の写真)。パスカルと狼の心が通じ合っていることがよく分かる素敵なシーンだ〔撮影は 安全上 問題なかったのだろうか?〕
  
  
  

別の日。ヴェルダンが 肉の塊を切り出し、「イヴ」「アダム」と言いながら、肉片をバケツに入れている〔後者は、本来はパスカルの担当〕。パスカルは、その横で 包丁で肉を撫でているが、何となく元気がない。そこに家政婦が入って来て、「七面鳥を買ってきたわ」と言うので、クリスマスが近いことが分かる〔先程のシーンから1ヶ月以上経過。それだけ病気も進行〕。ヴェルダンが切り終わり、「腹を空かしてるに違いない。行くぞ」と声をかけると、パスカルは、最初、「今日はいいよ。気分が悪い」と断る(1枚目の写真)。しかし、結局行くことにし、父の助言で量を半分にして持って行く。地下室では、アダムの足の添え木が、ヴェルダンによって外される(2枚目の写真)。アダムは すぐに起き上がって普通に歩く〔この場面、矛盾が目立つ。アダムを井戸から救い出した時、ヴェルダンは、「折れてはいない。だが、パリから石膏が届くまで」と言って添え木を当てた。しかし、この場面では添え木のままで石膏はなし。しかも、骨折でもないのに、添え木を当てて1ヶ月も寝かせきり〕。そのあと、パスカル、「狼って、犬より指が1本多いって知ってた?」と、自慢げにヴェルダンに言う。すると、ヴェルダンは、「犬の方が1本少ないって言った方がいいんじゃないか? 数千年の間に退化したんだ」と、言い返す(3枚目の写真)。パスカルは、「僕の本、読んだんだね。読めないなんて嘘ついて」と責める〔“狼爪” と呼ばれる指は、人間では親指にあたる位置にある退化した指で、犬の特徴になっている。ところが、この “狼爪” について、Canadian Journal of Zoologyという学術誌の2003年の81巻12号の論文『犬との混合祖先の証拠としてのオオカミの狼爪(Dewclaws in wolves as evidence of admixed ancestry with dogs)』によれば、「後肢にみられる退化した第一趾(狼爪)は、大型犬種では一般的だが、オオカミを含む野生の犬種では存在しない」と断言されている。そして、「オオカミと犬の雑種、戻し交配により受け継がれた狼爪の存在から、オオカミに見られる狼爪は、雑多な交配の結果、恐らくは大型犬種が関与する地域で発生したものと考えられる」とし、“狼爪” はオオカミの特徴ではなく、逆に、犬との交配によってオオカミに与えられたと結論している。この研究では遺伝子の解析が用いられており、観察しか手段のなかった18世紀とは異なる結論を導いている〕
  
  
  

12月21日の夜、眠っていた父は、パスカルの気配で目が覚める。「今 何時だ? どうした?」(1枚目の写真)。「目が覚めたから」。父は、明かりを点けて サイドテーブルの時計を見る。「どうかしてる。朝の4時だぞ」。「眠れないの。横に寝ていい?」(2枚目の写真)。父は、パスカルを横に寝せるが、パジャマのズボンがないことに気付く。「悪い夢でも?」。「違うよ」。父は、電気を消して寝ようとするが、パスカルのことが心配になり、そっとベッドを抜け出る。パスカルは、すぐそれに気付く。父は、パスカルの部屋まで行くと、ベッドに手を入れ、おねしょをしたことを確かめる。そして、点いたままの電気スタンドを消す。部屋に戻り、パスカルが起きているのを知ると、おねしょのことは口にせず、「スタンドを消し忘れたな」とだけ指摘する。「こんなこと、初めてだよ」〔おねしょのことを間接的に言った〕。父は、あくまでも優しい。「何でもない。気にするな。寝なさい」。「ありがとう。お休みパパ」(3枚目の写真)。そのあと、「明日、カトリーヌ、来る?」と訊く〔カトリーヌが城に来るのは12月22日〕。「来るとも。お休み」。
  
  
  

翌朝、父がヴェルダンに話しかける。「あの子の体の変調は、重大な警告だ」。ヴェルダンは、「なあ、健康な子でも おねしょはするぞ…」と、トーンを下げようとするが、父は、「重大さが 分からないのか? これは病気じゃなく、恐怖によるものなんだ」と主張する(1枚目の写真)「潜在意識、恐怖心が起こすんだ」。ヴェルダンは、それでも反論する。「それは違う。パスカルみたいに強い子は見たことがない。言わしてもらえば、あの子は、私らより 余程大人だ」。父は、半分は肯定する。「君は正しい。その通りなんだ」。しかし、「だが、私の言うことも正しい。父親だからな」とも。そして、重大な言葉。「昨夜まで、何らかの奇跡が起きるに違いないと信じてきた。だか、昨夜 分かったんだ。奇跡など起きないと… 私のパスカルには」(2枚目の写真)。
  
  

12月23日の夜、パスカルは父とチェスをしている〔チェスの場面は初めて〕。いきなり、パスカルが 「チェック」。父は、“やられた” という顔で カトリーヌを見上げ(1枚目の写真)、そのあと、パスカルとカトリーヌは相好を崩す。あきらめた父は、「もう一戦やるか?」と訊く。「明日ね。疲れちゃった。前は チェスで一度も勝てなかった。わざと負けてない?」。「そんなことはない。他の事を考えてたからかも」。「僕もだ、だから おあいこだね。狼のことが心配なんだ。僕が死んだら、どうなっちゃうんだろう?」(2枚目の写真)。「ここにいるじゃないか」。「でも、僕はすぐ死んじゃう。動物園には戻さないでね」。父は、辛そうに 「戻さない」と短く答える。「でも、森に放されたら、牛を襲うだろうね。そしたら、農場の人に 鉄砲で撃たれちゃう。どう思う?」。「まだ そこまで考えてない。敢えて訊かれれば、何もできないとしか言えない。時が解決する。狼は運命に従うしかない。私とお前のように」。この割り切った諦めの境地に、パスカルは 「そうだね、ちょっとは安心した」と言って、父の膝に頭を横たえる。父は 「心配するな」と声をかける。「そうだね。何とかなるよ」。「前にもこんなことがあった」。「そう?」。「ああ。お前に勇気づけられた」〔パスカルが “死を自覚していると告白した時”、父とヴェルダンの口論を、「何とかなるよ」と言って収めた〕。「よかった」。そう言って目を閉じたパスカルを、父は優しく撫でる(3枚目の写真)。
  
  
  

12月24日。パスカルは トラクターを運転して、一番 気に入ったモミの木の前に行く。父とヴェルダンが木を切り倒す。そして、木の根元の部分をトラクラーのチェーンに結びつけ、城に向かって運び始める(1枚目の写真)。場面は変わり、居間の中央にモミの木が立てられ、父とパスカルが飾り付けをしている。ヴェルダンが イルミライトのスイッチを入れると、パスカルは 「すごいや、きれいだね」と喜ぶ(2枚目の写真)。しかし、父が、「別の飾り物の箱を取って来てくれ」と頼むと、「今? ちょっと疲れた」と断る。父は、深刻に思わせないよう、「私も疲れた。少し休もう」と 作業をやめる。そして、「明日のために、今日の午後は、たっぷり昼寝をしておけよ」と言う。その時、カトリーヌが入って来て、「暗くなる前に帰りたいなら、急がないと」と、買い物の催促。ヴェルダンは、イルミライトを点滅させることに成功し、全員がそれに見入る(3枚目の写真)。こうして、父とカトリーヌはいなくなる。
  
  
  

パスカルは、ヴェルダンと、プレゼントの山の中で遊ぶうち、1つの箱を踏み抜いてしまう。中から出てきたのは赤い手袋。パスカルは、狼使いだとピンとくる。イヴの夜にならないのに、ヴェルダンが率先して包みを破り、赤い帽子を頭にかぶせる(1枚目の写真)。さらに、濃い茶色のマントを着せ、鏡の前でパスカルは大満悦。辺りは暗くなるが、父とカトリーヌはまだ戻って来ない。食堂の間では、家政婦が、イヴの晩餐の準備をしている。そこに、狼使いの衣装のまま パスカルが入って来る。そこで分かったのは、衣装を縫ってくれたのは、家政婦のおばさんで、ヴェルダンは指示しただけということ。ヴェルダンが晩餐に備えて一張羅に着替えるため、城から出て行こうとすると、パスカルが 「ヴェルダン」と呼び止める。「話したいことが…」(2枚目の写真)。「何だい?」。「ううん、いいよ」〔パスカルは、何が言いたかったのだろうか? 別れの言葉か?〕。パスカルは、寂し気に食堂に戻る。ちょうど、七面鳥が焼き上がったところで、家政婦が、「見てご覧。手伝ってもらえる」と 言葉をかけるが、元気なく、「狼を見て来なくちゃ」と返事する(3枚目の写真)。「ここにいなさいな。チョコレート・ムースの味見ができるわよ」。パスカルは、力なく立ち上がると 「狼を…」と言い、部屋を出て行く。
  
  
  

真っ暗になり、ようやく父とカトリーヌが帰って来る。父が、車を降りると、城の中から 狼の遠吠えが聞こえる(1枚目の写真)。異変を感じた父は、カトリーヌに、「ここにいて」と言うと、急いで城の中に入って行く。「パスカル、どこだ?」と訊いても、返事はない。そこで、遠吠えのする居間に向かって走る。父は、ツリーの周りに散らかったプレゼントを見て、「ズルしたな。プレゼントは開けないって約束したのに」と文句を言う。それでも返事がないので、「パスカル、ふざけてないで…」と、ツリーに近づいたところで、床に倒れているパスカルに気付く。絶句した父は、そっと近づくと、パスカルの体を起こし(2枚目の写真)、脈を確かめる。そして、死んでしまったことが分かると、“来るべき時が来た” という顔で遺体を抱き上げる。悲しいテーマ曲が始める。狼2匹が、その光景を見守っている〔パスカルが地下室から連れて来た〕。パスカルの左手には父へのプレゼントが握られている(3枚目の写真、矢印)。そして、床に落ちる。父が 何かと思って包みを解くと、そこには、以前、パスカルがヴェルダンに手伝ってもらって焼けた鉄棒で字を描いていた絵が出てきた(4枚目の写真)。描かれている文字は、「Bonne Chance」。英語で言えば、「Good Luck」。「お幸せに」だ。それは、絵の左下に並んで立っている父とカトリーヌの新しい門出に対する祝福の言葉だった。その暖かい思いやりに、父はパスカルを思いきり抱きしめる(5枚目の写真)。父はパスカルを抱いたまま部屋を出て行き、残された2匹の狼が 追悼の遠吠えを続ける。
  
  
  
  
  

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